大分建設新聞

四方山

令和の辰砂

2024年04月04日
 玄界灘に面した佐賀市諸富町は、徐福伝説が伝わる地である。徐福とは、2200年前に古代中国を統一した秦の始皇帝に仕える学者。方士と呼ばれ、医薬、天文だけでなく神仙の術にも通じていたとされる。その徐福は始皇帝の命で、不老不死の薬を求めて日本を目指し、最初に上陸したのが佐賀の地だったと伝わる▼徐福が見つけたものかどうかは不明だが、始皇帝は「丹薬」と呼ばれる霊薬を服用していたという。原料は「賢者の石」と呼ばれた「辰砂」。鮮やかな朱色の鉱物だが、平たく言えば水銀の原料である。現在は猛毒であることは分かっているが、朱の美しさゆえに不老不死の薬と信じられていたようだ▼古代中国限定の話ではない。液体から固体へ、あるいは固体から液体に変化する水銀の不思議な性質から、西洋でも長く薬として珍重されていた。実際、強力な下剤作用があることから、ナポレオンやリンカーンは体から毒素を取り除く薬として服用していたという。もちろん、今では考えられないことである▼こちらはさながら「令和の辰砂」であろうか。小林製薬が製造した紅こうじのことである。悪玉コレステロールを下げる効能があるとうたった紅こうじのサプリメントを摂取した人の間で健康被害が広がっている。原因物質が判然としないのも不安の要因になっている。加えて、同社製の紅こうじがさまざまな食品の原料として使われていることから、騒動は広がるばかりだ▼発端となったサプリは、機能性表示食品と呼ばれるいわゆる健康食品。国がお墨付きを与えたのかと思っていたが、消費者庁への届け出だけで済むらしい。規制緩和による成長戦略の一つとして創設されたという。そもそも健康に関わる事柄を、成長戦略の中で捉えることに無理はなかったのだろうか。(熊)
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