綸言汗のごとし
2024年10月08日
「綸言汗のごとし」という。「綸言」とは、中国の皇帝が発する言葉。最初は細い糸でも、人々に伝わる時には太い糸となって重くなる、という意味も込められている。体から出る汗が二度と体に戻らないように、皇帝の言葉は軽々しく発するものではない、という戒めの言葉である。それは今も同じである▼自民党総裁選で現職が敗れたケースは、過去に一例だけある。1978年の総裁選に再選出馬した福田赳夫氏である。当時、首相だった福田氏は高い支持率に自信を持っていた。選挙前、行われていた党員投票による予備選に絡んで「予備選で差がつけば2位の候補は辞退すべきだ」と発言していた▼だが、ふたを開けてみれば、大平正芳氏の前に、2位に甘んじた。本戦で逆転の道も残されていたが、福田氏は退陣を選んだ。政治家として自らが発した言葉に殉じた。「綸言汗のごとし」の通り、一国の宰相として発した言葉の重さを熟知していたのだろう。翻って、首相の座をつかんだ石破茂氏である。一体どうしたことなのか▼総裁選では「女性参画確保」と言いながら、石破内閣の顔ぶれをみると、女性閣僚は岸田文雄内閣よりも3人減って2人にとどまった。日本を米国の植民地的な立場に追い込んでいる一因とされる日米地位協定について、見直しを明言していたにもかかわらず、首相就任後は封印してしまった▼際立つのが「厳しく臨む」としていた裏金問題である。就任すると、手のひらを返したように裏金議員の公認を打ち出したかと思えば、世論の反発を受けると、一部は非公認とする考えを表明するなど揺れている。退陣に際して、福田氏は「天の声にも変な声がたまにはある」と語った。負け惜しみもあるだろうが、国民への謙虚さが感じられる。石破氏はどうなのであろうか。(熊)