司法の信頼性
2024年11月14日
東京・兜町の東京証券取引所。言わずと知れた日本最大の証券取引所で、その建物は東証アローズと呼ばれている。かつて大勢の証券マンが独特の指サインで株式の売買をしていた立会場は、取り引きの電算化に伴い消えた。代わりに、ガラス張りの円周約50㍍の巨大な円筒形装置がしつらえられている▼マーケットセンターと呼ばれ、電光表示板には時々刻々の株価が表示されている。ガラス張りであるのは、株式取引の公正性、透明性の象徴という。そのガラスに大きなひびが入った。20歳代の東証職員が株式の公開買い付け(TOB)に関する情報を家族に伝え、不正な取り引きが行われたとして、証券取引等監視委員会(証券監視委)が強制捜査に入った▼公正さを何よりも重んじる証券取引所を舞台に、職員が立場上知り得たインサイダー情報を元に親族の資産形成にひと役買ったというのは、前代未聞であろう。まさか…と思っていたら、今度は当の証券監視委を所管する金融庁を舞台にした不正疑惑である。疑惑の主は出向中の裁判官というから驚くばかりだ▼未公表情報を元に、自身でTOB関連株を売買し数百万円の利益を得ていたとされる。公正、公平だけでなく、人格的にも高潔であるとされてきたのが裁判官である。それが私的な利益を得るために脱法行為に手を染めていた▼連続テレビ小説『虎に翼』で、食糧難の戦後間もない頃、法的には違法である闇米の事件を扱う裁判官が、闇米を拒み餓死する姿が描かれた。実話である。そうした正義に殉じた判事らがいたことが裁判所の信頼を築いてきた。今回の問題は、司法の信頼性を揺るがせかねない不祥事である。一方で裁判官は憲法で手厚く身分が保障されている。裁判所は沈黙したまま。特権階級よろしく逃げ切る気なのだろうか。(熊)