大分建設新聞

インタビュー

安部丞さん(英彦建設社長)

2010年06月11日
 木造2階建ての立派な住宅が、地上1・5㍍の高さに組み上げられたレールの上をゆっくりと、すべるように動いていく。建物は、10㍍の距離を移動すると、静かに固定された。  国東市の富来地区。国道213号の拡幅のため、道路脇の土地を提供した楠本邸の曳家(ひきや)工事が進んでいる。曳家工事とは、建物や文化財などをそのままの姿で移動する技術。施工は大分市豊町の英彦建設。県内で曳家工事ができるのは、同社を含め、2社しかない。  「英彦」と言えば、中津市山国にそびえる九州修験の総本山、英彦山が連想される。「社名の由来は英彦山です。筑豊では〝ひこさん〟ではなく〝えひこさん〟って言うんです。会社の前身は福岡県の田川にあった辻組という会社。昭和30年代初頭、当時の木下郁知事と上田保大分市長の要請を受け、大分に移ってきました」と説明してくれたのは、同社の安部丞社長。  当時は国土づくりの時代。後に新産業都市に指定される大分市は、大規模な区画整理を行おうとしたが、区画整理に必要な曳家業者がない。そこで、炭鉱の町で、曳家業者がたくさんあった田川から同社を招いたというわけだ。「先々代の社長も、将来性を感じたのでしょう」と安部社長。  「私が会社を引き継いだときは、まだ旧来の曳家をやっていました」とおよそ14年前のことを話した。レールではなくコロを使い、人力で建物を移動していた頃は、1日に2㍍を移動するのがやっと。移動中、建物が傷んでしまっていた。  現在はSRM工法という、レールを使った工法を採用している。移動中のひずみが少なく、建物の傷みがほとんどない。工事中も引越しをする必要がなく、そのまま生活を続けることができる。この工法だと、10分で1㍍程度の移動ができる。  家屋の保存を目的とした曳家工事。ちょっとしたミスも許されず、作業は慎重に慎重を重ねる。施主の楠本幸人さんは「しっかりやってくれている」と全幅の信頼を寄せ、新しい庭の構想を楽しんでいる。




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