大分建設新聞

インタビュー

松本 佳久さん(大分工業高等専門学校教授)

2021年03月16日
 先日、第18回大分県ビジネスプラングランプリで最優秀賞を受賞した㈱ハイドロネクスト(大分市、永井正章代表取締役社長)は、大分工業高等専門学校(日野伸一校長)初のベンチャー企業である。同社が取り組んでいる「水素透過金属膜の活用による、水素社会実現に向けた挑戦」というテーマの技術を担う大分高専の松本佳久教授に話を聞いた。
 金属材料が専門の松本教授は「2004年頃には金属の膜を水素原子が透過するという基礎研究を始めていたが、それはまだ学術的なものだった」と振り返る。「10年後、教え子の一人が経営する会社が参画している異業種交流会で講演を行ったところ、興味を持った教え子から話が広がり、水素精製技術を活かせないかと、大分高専で勉強会が始まった」のがきっかけ。「勉強会は半年ほど続いたが、この技術を社会実装するためにハイドロネクストを設立し、約2年後に株式会社化した。勉強会のメンバーの中に永井社長がいた」と、大分高専から始まったベンチャー企業の生い立ちを話した。
 松本教授が研究を重ねていた水素透過金属膜方式の技術は、従来の貴金属ベースの薄膜を用いた方式の、資源量が少なく高価格で欠陥を生じやすいという課題を根本から覆すもの。「比較的に単純な構造で、膜の材料や設置に関するコストに加えて静的な仕組みによりランニングコストも低減が期待できる」と、コスト面のメリットを上げ、「膜の運転条件のコントロールによっては水素の回収率を高くすることができる」と、メリットを付け加えた。
 原材料となる副生水素とは、多様なプロセスから副産物として生産される水素で、大分県には九州唯一の石油化学コンビナートから発生している。「今は熱源としか使われていないこの副生水素から高純度の水素を製造して、輸送から利用までを県内で一貫して行うサプライチェーンを構築することにより、大分モデルによる水素社会の実現を目指す」と、「大分から世界へ」を掲げている。
 「たとえば、半導体および液晶の製造工程ではクリーンな水素ガスが必要で、その純度が高いと生産の歩留まりが上がる。また、高純度の水素ガスで活性酸素を中和することにより臓器移植の保存液や、手術中の臓器・組織内の毒性物質の産生で引きおこされる障害を防ぐ、という医療用途もある」と、エネルギー以外の活用方法に夢を広げる。
 受賞した会社については「ハイドロネクストは、コア技術を育て展開する会社とする。中央の企業を協力会社として支えてきた、職人技術を持つ大分の装置産業のレベルは高いので、周辺技術は任せる」と、大分の企業への期待は大きい。建設業界では、大手ゼネコンでの活用が始まろうとしている。
 ハイドロネクストで主幹研究員を務める松本教授は、国立高等専門学校機構の要職も務め、大分高専でも多数の兼務を抱え、趣味の釣り糸を垂らす時間もないという多忙の毎日だ。

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